All American Boy

リック・デリンジャーという人はいわゆる器用貧乏で、実に様々なスタイルのギターが弾けるし、ギター以外にも色んな楽器が演奏できて歌も上手い、作曲・プロデュース能力も超一流。おまけにルックスも王子様のようにステキときているので70年代にはずいぶんと人気があった。
最初のキャリアは60年代のマッコイズというポップ・グループで、「ハング・オン・スルーピー」の大ヒットで一躍アイドル的存在となった。70年代に入ってジョニー・ウインターとエドガー・ウィンター兄弟の両方のバンドのメンバー兼ソングライター兼プロデューサーとなって大活躍、ウィンター・ファミリーの影の参謀と呼ばれるようになる。その後はソロ・アルバムの制作、リーダー・バンドであるデリンジャーでの活動のかたわら、アリス・クーパー、トッド・ラングレン、スティーリー・ダンなど数え切れないほど多くのミュージシャンのバッキング・プレイヤーとして活躍。変わったところでは、日本の子供バンドのプロデュースなんかもやっている。今でも第一線で精力的に活動しており、最近では「DBA」デリンジャー・ボカード&アピスやスムース・ジャズのアルバムを発表、ツアーもコンスタントに続けている。

今回は73年リリースの初のソロ・アルバム「オール・アメリカン・ボーイ」のご紹介。バックにはウィンター・ファミリーからエドガー・ウィンター、ボビー・コールドウェルが参加。他にはギターにジョー・ウォルシュもクレジットされている。プロデュースはリック自身とビル・シムジク(正確な読み不明)。シムジクはジェイムス・ギャングやジョー・ウォルシュのアルバムのプロデューサー。

●曲目
1.Rock And Roll, Hoochie Koo(R.Derringer)
2.Joy Ride (Instrumental)(R.Derringer)
3.Teenage Queen(R.Derringer)
4.Cheap Tequila(R.Derringer)
5.Uncomplicated(R.Derringer)
6.Hold(R.Derringer,P.smith)
7.The Airport Giveth (The Airport Taketh Away)(R.Derringer)
8.Teenage Love Affair(R.Derringer)
9.It's Raining(R.Derringer)
10.Time Warp (Instrumental)(R.Derringer)
11.Slide On Over Slinky(R.Derringer)
12.Jump, Jump, Jump(R.Derringer)
●パーソネル
Rick Derringer:voc.,guitars,pedal steel guitar,electric sitars, bass, organ,percussion
Joe Walsh:guitars
David Bromberg:dobro
Paul Harris:piano,synth.
Edgar Winter:piano, organ,clavinet
Kenny Passrelli:bass
Boby Caldwell:drums
Joe Vitale:drums
Joe Lala:congas,cowbell
Jean(Toots)Thielemans:chromtic harmonica
Lani Gloves,Tasha Thomas,Carl Hall:back voc.
●プロデュース Rick Derringer,Bill Szymczyk
●リリース 1973年

1曲目から強力!「ロックンロール・フーチー・クー」はリック・デリンジャーの曲では一番有名だろう。日本のアマチュア・バンドには特に人気なようで色んなバンドがレパートリーにしているし、アマチュアではないが松本孝弘氏も「ロックンロール・スタンダード・クラブ・バンド」で取り上げている。全曲デリンジャー作だが、6曲目のジャズ・バラード「ホールド」だけパティ・スミスとの共作になっている。おそらくパティ・スミスが詞を書いたのだろうが、2人の接点はイマイチよく分からない。

「ロックンロール・フーチー・クー」のようなロックンロール曲のほか、カントリー、フュージョン、ポップス、スロー・バラードと何でもありで、初めて聴いた人は「なんじゃコリャ?」となるかもしれない。良く言えばカラフルなミクスチャー音楽、悪く言うとまとまりのないゴチャ混ぜ音楽。しかし、次作の「スプリング・フィーバー」も、同時期のE.ウィンター・グループのアルバムも同じ作りなのでこれが彼の狙いなのだろう。ソロやウィンター・ファミリーのアルバムには手当たり次第にやりたいことを全部詰め込んでしまい、なおかつタイプの異なるバンドで縦横無尽にプレイしたり、この時期のデリンジャーはとにかく過剰。才能が泉のように湧き出てくる感じなのだろう。この辺が器用貧乏と言われる所以なのだが、ファンとしてはそこがまた好ましい。「どんどんやれー」って感じ。聴き込んでみると、どの曲も非常に高い次元で職人的にきっちりまとめられているのが分かる。

ギター・サウンド的にはややエフェクト過多で私自身の好みからはちょっと外れるが、フレーズのセンスは大好き。ロックンロール・ギターのお手本だと思う。三連・六連を多用したたたみかけるような前のめりのフレージングは、親分ジョニー・ウィンターにも逆に影響を与えてしまっているようで、ジョニー・ウィンターのコアなファンからの評判は芳しくないと聞いたことがある。

70年代中期はリック・デリンジャーの明るくポップなセンスがピッカピカに輝いていた時期で、この「オール・アメリカン・ボーイ」と、エドガー・ウィンター・グループの「ショック・トリートメント」は彼の生み出した生涯の傑作だと思う。

※Rinky Dink Studioのライブ情報誌「De Pon」連載のコラム「Hoochie Coochie Man」に加筆したものです。


参考 リック・デリンジャー オフィシャル・サイト
http://www.rickderringer.com/